豪雨 台風 津波 水害に強い家のつくり方 費用相場

水害に強い家



新型コロナの発生地、中国湖北省は天災による甚大な被害を出しています。長江の中流域にある宜昌市の世界最大のダムと呼び声の高い「三峡ダム」が決壊の恐れによりものすごい勢いで放水をはじめました。告知もなくひそかに行われていたという動画がでたのは6月22日。洪水被害は人災ではないかとの声も高まっているようです。中国南部では6月に入ってからたびたびの豪雨に見舞われ、6月27日は湖北省より上流にある四川省で豪雨による洪水で少なくとも12人が死亡、7,000人が避難しているという状況がニュースで流されました。

豪雨洪水に備える

豪雨災害は日本でも多発しています。

過去の豪雨被害

■平成30年7月豪雨
2018年6月28日~。梅雨前線と耐風7号の影響もあり、広島・岡山・愛媛県などで土砂災害、浸水被害が発生
■平成29年7月九州北部豪雨
2017年6月30日~。梅雨前線と台風の影響により、湿った空気が大量に流れ込み福岡・大分などを中心にした土砂崩れなどにより、40人が死亡、1600棟を超える家屋の半壊や浸水被害が発生
■平成27年関東・東北豪雨
2015年9月7日~。低気圧に向かい暖かく湿った空気が流れ込み、西日本から東日本にかけて広い範囲で大雨が発生。この雨により鬼怒川が決壊し家屋が流されるなど、14人が死亡7,000棟以上が半壊、浸水被害をうける

このように、最近だけでも毎年6月後半から9月ごろにかけて、日本列島は豪雨に見舞われて甚大な被害を出しています。

こうした豪雨・洪水に際して自衛の手段はないものでしょうか。家族の命とわが家を守るためにできる対処をしましょう。

ハザードマップで家の周辺の危険地帯を確認する

土砂災害防止法により、各都道府県は「土砂災害マップ」を公開しています。その中で急傾斜地の崩壊や土石流、地滑りなどに分けて「土砂災害警戒区域」を指定しています。また「風水害ハザードマップ」には地域により高潮や津波による浸水想定や内水による浸水想定が為されています。

国交省運営/ハザードマップポータル

国交省のハザードマップポータルでは、「洪水」「土砂災害」「津波」「道路防災情報」をマップで見ることができます。
各市町村で出しているハザードマップには「地震」「水害」別の情報も出されている場合もあります。津波や液状化の危険区域も表示されています。

市の「地震ハザードマップ」によれば、筆者の家では津波による水位が1m~2mと想定されています。付近に山などはないため土砂災害は想定されませんが、海に近い土地柄、地質が脆弱であることが考えられます。しかし液状化危険度は「極めて低い」となっています。津波がおしよせた際に高さが30㎝になるまでの時間も計算されており、60分から80分になっています。大きな地震が起きた時は、1時間ぐらいの時間内に、高い場所へ避難する必要があるということです。

液状化が起こりやすい土地かどうか、自分が住む土地の成り立ちについても知っておくことをお勧めします。

国土地理院/地理院地図土地の成り立ち

海に近い平地の場合、砂が堆積してできた土地である可能性もあります。また、もともと低地であったところへ盛土や埋め立てをして造成した土地などの場合も、液状化の危険性を否めません。市が出している液状化危険度とも鑑みながら、対策しましょう。

今住んでいる家を豪雨からまもる

警戒レベル1、2となるまでにすべき事

普段から点検しておくべきポイントをリストアップします。

■屋根
・瓦のズレをなおす
・トタンなどのめくれや留め金のさびを修繕
・アンテナがある場合はしっかりと固定する

■ベランダ
・鉢植え、ゴミポスト、物置、物干し竿などのモノは避難路確保のためにも極力置かない

■建物
・外壁にクラックなどあれば修繕
・窓が割れた際に飛散しない様飛散防止フィルムを張る
・雨戸だけでなくカーテンやブラインドを閉める

■外構
・雨どいの掃除をし、スムーズな排水を促す
・プロパンガスなどものが置いてる場合はしっかりと固定する
・排水溝・排水桝の掃除をし水はけを良くする
・ブロック塀が老朽化していないかチェックする

その他、普段から準備して起きたことをまとめました
■非常持ち出しグッズを揃える
・ヘルメット、防災頭巾
・30ℓ/一人一日の水
・携帯電話、携帯ラジオ
・懐中電灯
・予備電池
・救急医療品、常備薬
・筆記用具、ライター、ナイフ、缶切り、トイレットペーパー、簡易トイレ、長靴、軍手など
・現金、印鑑、保険証、免許証、預金通帳など
・非常食
■備蓄グッズ
・非常食
・水
・カセットコンロ、ボンベ
・トイレットペーパー、テッシュ
・ビニール袋
・ラップ
・衣類
・毛布
・タオル
・スコップ
・バール
・のこぎり
・ロープ
・ジャッキ
・ゴーグル
・マスク
■安否確認を体験しておく 確認する電話番号を登録しておく
・災害用伝言ダイヤル(NTT)
伝言を残す 171/1/相手の電話番号/伝言
伝言を聞く 171/2/相手の電話番号/伝言を再生
・災害用伝言板サービス(ケータイ各社)
・災害用伝言板WEB171(NTT)
・災害用音声お届けサービス(ケータイ各社)

新築するなら水害にも備えよう

筆者の住む町は伊勢湾台風の被害を受けた地域です。町のいたるところに「伊勢湾台風時の水位」が表示されています。場所によっては道路から1mぐらいのところもあります。昭和34年以前に建っていた古い家は大抵床上浸水を経験しています。当時は畳を机の上にあげ、家族は2階に避難したそうです。学校が使えなくなり、しばらくはお寺などが臨時の教室となったと聞いています。お寺や神社の多くを高いところにつくるのは、津波や洪水などで被害を受けた過去があるからでしょう。

そのような街柄、古い家を壊して新しく建てる家は基礎を高く作っています。しかし、このところ近隣に増えてきた建売住宅は、そのような配慮はありません。この地域を離れた人が手放した土地では、当時の災害状況を知らない人たちが経済原理に基づいて開発します。そしてこの地域に起きた災害の記憶の無い人たちが購入します。災害の記憶はこうして次第に薄れていくのでしょう。

土地の成り立ちや履歴を知ろうとすればいろいろな情報が得られますので、手間暇を惜しまないほうが対処もでき、後々の幸せの一助になります。

液状化から家を守る地盤改良方法

日本の国土は縄文時代には海面の水位が高く、現在の低地のほとんどは海の中にありました。東京なども江戸時代、多くの土地を干拓して広げていますし、多くの都市の臨海部は埋め立てして造成された土地がたくさんあり、工業地帯や宅地などに使用されています。表面の地盤は脆弱で、豪雨や津波、地震などで液状化が起きる可能性は高くなっています。

そのような土地にコンクリート造などの重い建物を建てる場合、地質調査をしたうえで地下の岩盤まで杭を打つのですが、住宅の場合はその手続きを踏まず、建てられたものも多く存在します。(平成12年に建築基準法が改正され、「品確法」に基づき”基本構造部の10年保証”などが定められた)どのような地盤改良方法があるのかについてお伝えします。

地盤の表層を改良する工法

現在住んでいるが、家が傾いてきたので地盤改良したい、という場合はセメント系薬液を注入して改良する方法が採られます。これにより、家の傾きを治し、地盤改良も同時に行います。土地に入り込む地下水を通りにくくし、堅牢な土壌で家がゆがみにくくなり、建具などの立て付けが悪くなりにくいメリットもあります。工期は約8日と、短期での改良が可能です。震度5にも耐えるとのうたい文句です。費用は建物沈下修正+地盤改良で200万円程度~となります。

工期:1週間程度
費用:3万円/坪 程度
ポイント:住みながらでも可能。地下水位が高い場合、傾斜地はできない

柱状改良工法

円柱状に地盤を固めた改良杭地盤で建物を支えます。支持層がなくても、軟弱地盤が2~8mというような場合に施工できます。地中の60㎝πほどを良好地盤まで掘り進め、セメントと土を撹拌しながら固めて杭にします。もし土地を売ったり、用途変更する場合など、撤去することは難しいので、原状復帰しにくい点で土地の価格が下がるということもあり得ます。

工期:2~3日/30本
費用:4~5万円/坪
チェック事項:比較的小型重機でも可能だが原状復帰は難しい

小口径鋼管杭工法

小口鋼管を杭として、地下の支持層となる岩盤で建物を支える工法です。地下30mまで対応し工事期間は1~2日と短期です。3階建てコンクリート造など比較的重量のある建物にも使えます。深度5~6mで約110万円~140万円と少々高額。音が出るため、近隣への配慮も大切になります。

工期:1~2日
費用:5~7万円/坪
チェック事項:大型重機が入る場所でないとできない

【国交省】浸水の予防・人命を守る家づくり

国土交通省による水害に関するレポート及び対策において「浸水の予防・人命を守る家づくり」について言及しています。その中で、床上浸水の防止に焦点を置いた家づくりが大切であることが記されています。次の4つの方法があげられています。

・盛土をして敷地自体を高くする
・家の基礎を高くして高床式住居にする
・防水性の塀で家を囲む
・防水性の壁を設け建物自体で防水するため

さらに、二階の有効利用や、屋根に脱出する窓などを設けることも有効であるとしています。

「財産を守る家づくり」では、家財を守るために2階へ移動しやすいよう階段の幅を広げるなどの配慮が取り上げられています。

盛土をして敷地自体を高くする

盛土の費用を積算してみましょう。

・整地費用:400円~650円/㎡(1,322円/坪~)
・伐採、抜根費用:400円~800円/㎡(1,322円/坪~)
・地盤改良費用:1,200円~1,300円/㎡(3,966円/坪~)
・盛土費用:3,700円~4,600円/㎡(12,231円/坪~)

盛土の合計が18,841円/坪として、100坪の土地として188万円~。
土止めが必要な場合は、その費用が掛かります。

・土止め:35,800円~49,600円/㎡

家の基礎を高くする

日本の木造住宅の基礎は「布基礎」か「べた基礎」の二つに分かれます。「布基礎」は土中にフーチング部分が埋設された形で、コンクリートの立ち上がり部分だけが地上にあり、木造の土台を支えます。「べた基礎」は低版一面をコンクリートで打った基礎です。「べた基礎」は立ち上がり部分と底板が鉄筋で一体化しており、耐震性、防蟻性、防湿性に優れています。「布基礎」はその逆ということですが、コスト的には低く抑えることができます。

・布基礎:平均120万円/35坪の家
・べた基礎:平均150万円/35坪の家

水害の想定水位まで基礎を高くする場合、いずれの基礎工法によるとしても床下に無駄な空間ができることになります。空間が無駄というばかりでなく、高くした分、耐震強度を得るために鉄筋を増やしたり、コンクリートの厚みを増したりする必要が出て結果として、基礎のコストは高くつきます。もっと言えば、コンクリートを打つ際の型枠のサイズが規格外となるので割高になったりもします。建物自体も重くなり、脆弱な地盤に建てる場合は「杭」などの地盤改良にも考慮が必要となります。

もう一つの考え方として、1階部分を駐車場にするなど「下駄」を履かせるやりかたがあります。ピロティをつくれば二階三階の住居部分は浸水被害から守られます。

防水性の壁で敷地を囲む

筆者の居る地域では、伊勢湾台風以降に海沿いには防波堤ができました。川には水門がついており、津波に備えていますので、伊勢湾台風と同じぐらいの高波がきた時に波を防ぐように想定されています。これを自前で行うのが、敷地の全周を、水の入らない堅牢なものにするという考え方です。

・コンクリートブロック塀:1万円~1.5万円/㎡(3.3万円/坪~)
・コンクリート塀:4万円~5万円/㎡(13万円/坪~)

100坪として約300万円~となります。

塀で浸水を防ぐ場合の弱点は門の出入り口になります。しっかりと密閉できる堅牢な門が必要です。

防水性の壁を設け建物自体で防水する

建物自体を完全防水にしてしまえば浸水のリスクが低くなります。省エネ住宅が推奨され、高気密高断熱住宅への転換は急激に、その技術と共に高まっています。高気密住宅は浸水被害を少なくなる可能性はあるでしょう。なかで、もっとも高気密の典型はコンクリート住宅ということになります。こちらもコンクリート塀と同じく、出入り口が弱点になりがちですから、しっかり考えます。

丈の高いコンクリート基礎と同じく、さらに建物重量は増しますし、耐震設計が為されているかの審査をされるので、構造計算書にしたがった構造設計をする必要があります。

浸水被害を受けやすい一階のみをコンクリート造として、二階部分は木造にする「混構造」も家自体の重量を軽くする意味でも、一つの選択だと思います。

水害対策のそれぞれのデメリット

国交省がすすめる浸水予防と人の命を守る家づくりの中で、お金がかかるものから順にあげると、

コンクリート造の家>コンクリート塀>高床住居=盛土

ざっとこんな感じでしょうか。地域や時期・設計内容によっても価格は変動するので何とも言えず、実行する場合はいろいろなケースで見積もりを取ることをお勧めしますが、イメージとしてコンクリート塀にせよ、コンクリート造の家にせよ「豪邸」イメージですね。木造の家に密閉した塀を設けるのはバランス的にどうかと思われるし、コンクリート造の家は日本ではなかなか管理が難しいのではないかとの印象を持っています。湿気、万全な換気対策が必要不可欠です。

では高床式はというと、ピロティがある家を家相的には「下駄をはく」といって、あまり推奨されません。1階を駐車場にする場合、木造の場合だと壁量が足りなくなり構造的に弱くなるという弱点がありますが、陰陽バランスを整えることを重んじる家相は、日本の風土においてある意味理に適っているといえます。

ついでに言えば「盛土」した土地に家を建てることを嫌う家相家もいます。盛土は新しい土なので、崩れやすいため住居にするにはふさわしくないというところでしょうか。

というわけで、どれもこれも一長一短があるということです。ただし、皆さんの「我が家」に限って言えばベストチョイスは必ず見つかります。

1階コンクリート造、2階木造の混構造のメリットデメリット

こうして水害対策をした家を見てきた段階で、わが家ならば「混構造」が良いのではないかと思うようになりました。メリットとデメリットについてピックアップします。

コンクリート造のメリット・デメリット

鉄筋コンクリートで作られた家の特徴をまとめます。

【メリット】
■耐震性に優れている
■耐火性がある
■防火性にすぐれ、延焼を免れやすい
■台風水害に強い
■柱のない広いスペースをつくることができる
■変形土地にも対応でき、円形空間を作るなどプランニングの自由度が高い
■堅ろう性に優れている
■気密性に優れており防音性が高い
■蓄熱性に富み、蓄熱壁としてパッシプソーラーな機能を持たせられる
■防虫・防獣・防犯しやすい

【デメリット】
■建物の重量が増す
■工期が長くなる
■換気状況が悪いとカビ・藻が発生しやすい
■打ちっぱなしの場合汚れやすい
■建築コストが倍近く高くなる
■解体・廃棄コストも高くサスティナビリティは低い
■増築するリフォームには向かない

鉄筋コンクリート造の家は概して災害に強くシェルターとして優秀であることがわかります。
では木造の家はどうでしょうか。

【メリット】
■ぬくもりを感じられる
■多孔質で調湿効果がある
■肌触りが良い
■廃棄された材木は転用可能でサスティナビリティは高い
■建築コストを抑えられる
■増築リフォームがしやすい
■建物自体が軽いので堅ろうな基礎を必要としない
■構造設計・計算書が必要ない

【デメリット】
■気密性能を上げるには工法と技術を要する
■気密性が低いと防音性が低い
■製品にばらつきがある
■建物が軽いので、水に浮いたり流されるリスクがある

木造の家は、日本ではすぐ手に入る身近な建材を使用しており、作り方は「自然と一体化する」ようにつくられてきました。災害に遭っても、何度もつくり変えればいいと思ってきたのでしょうか。耐用年数自体は、しっかり作られた木造住宅はむしろコンクリート造よりも長持ちするものですが、代々住まう古い館はおどろおどろしく感じてしまう面もあります。式年遷宮という20年ごとに建て替える伊勢神宮のしきたりが日本人の精神のDNAとしてあるのかもしれません。文化と技術の伝承という面で式年遷宮は有効です。

鉄筋コンクリート造は外敵・災害から身を守るシェルターのような「うー」の家。
木造は自然と一体化し、生きている間の仮の宿りのような「ぶー」の家。その二つが共存するのが混構造ということです。

基本的に、現在の家のあり様は「省エネ化」がすすみ高気密高断熱性能を高めた木造の家づくりがどんどん広がっています。それ自体が「ぶー」の家と「うー」の家の融合形だともいえます。災害に強い家造りのためにわざわざ混構造にするよりは、しっかりと気密性の取れた家を建てる方がコスパ的には良いと言えるかもしれません。

災害シェルターの家を混構造にすべきかの結論

混構造でデザイン性に富んだ家をつくりたい、というのは一つの憧れでした。ただ、家の終末期の事を思えば、木造であっても解体の際に心が痛むものです。「まだ使える材料」はいったいどこへ行くのかと。堅ろうなコンクリートの家であればなおさらです。

現実的にも廃棄する際はコンクリートと鉄筋は別々にリサイクルされるべく分けて廃棄され、砕石になりリサイクルされます。解体費用だけでも木造の3~6倍ほどに跳ね上がります。強く作ったのだから壊すにも強い動力が必要になりますから。

家をつくるときに、家の末路について想像する人はあまりいないとも思いますが、それを考えた時、やはり混構造は躊躇してしまいます。機能的には木造で十分フォローできそうですから、もはや混構造にしなければならない理由があるとすれば「デザイン性」のみというところでしょう。

以上、水害に強い家のつくり方をまとめました。

トップ画像出展元: acworksさんによる写真ACからの写真

 

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